他のメーカーの靴を改造しても同じような履きやすい靴にならないことが木型の設計の重要性を物語っています。

以前別ブログの実験記録でサイズ感が異なる理由について考えました。その時TANINO CRISCI の靴はウエストラインとでもいうのでしょうか?土踏まずのところの絞り方がよくできていることに触れました。こちらの記事です
マッケイのコピー自分で底の修理をしたので変ですが無視してください

足の計測データの土踏まずのラインと甲革を取り付ける縫い目がそろっています。

最近は足のコンディションが当時よりもよくなってきたのでこのセッティングの良さがしみじみとわかってきました。

土踏まずのアーチのラインを支える方法としてはこのように甲革のサイドで締めるのが一番快適だと思います。でもそういう靴は少ないです。自分で靴を作った時のことを思い出してみるとこれを真似しようとしてうまく行きませんでした。

靴底の取り付けは接着剤で貼るだけでした。土踏まずから指の付け根にかけてのカーブをきつくすると強い力がかかるようです。履いているうちにはがれてしまいました。やはり縫い付ける必要があります。

ジョンロブなどのグッドイヤーウエルト式の靴はこの部分の絞りが緩いのでいまいちです。
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これはPHILIP というジョンロブの靴です。ちょっと古いモデルですけど…

店員さんが教えてくれたんですがグッドイヤーとマッケイの複合式というおもしろい靴です。今になってよく考えると土踏まずのラインを整えるためにこのような工夫をしているのでしょう。

グッドイヤー式の靴は何か制約があるみたいです。タニノ・クリスチーがマッケイ式を採用しているのはそのためでしょう。何が問題なのか調べてみました。

するとグッドイヤーウエルト式はハンドソーンウエルト式という手作りの伝統製法をもとに機械化してコストダウンを図った製造法だとわかりました。手順を比べてみましょう。

左がグッドイヤー式で右がハンドソーンウエルト式です。
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甲革を縫い付けるための中底の準備中です
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テープを貼るのと穴をあけるの違いがあります
これがネックかな
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釣り込みの機械化はちょっとまた別の問題かな

いよいよウエルトの取り付け
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手作りですと全てにひと手間もふた手間も違います

本底の取り付け
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手縫いでないと絞り込んだラインは縫えないと思います

詳しくご覧になりたい方はYouTubeでどうぞ。
左 http://www.youtube.com/watch?v=pOEbhNM7VfQ&feature=related
右 http://www.youtube.com/watch?v=Woh-SqV_b64&feature=mfu_in_order&list=UL

【追記】
わかりやすい解説記事のあるサイトを見つけました
ハンドソーンとグッドイヤー

マッケイ製法について


グッドイヤーウエルト式は簡単に言ってしまうと手作りではないということですね。機械の都合のため細かいセッティングができないのです。一方マッケイ式は機械化する工程を少なくしやすいですし構造が単純なので微妙な設定ができます。

特に中底のアーチから前底にかけてのラインの造りに差が出ますね。
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中底の起伏をちゃんと付けることができるかどうかが大切です。
参考サイト

TANINO CRISCI は足に合わせた自然な形の木型の設計を重視しています。グッドイヤーウエルト式ではタニノ・クリスチーの木型は製品化できないでしょう。ハンドソーンウエルト式ならできるでしょうが価格的に私のようなものが買える限界を超えてしまうでしょう。

複雑な形に対応できて費用を抑えられるマッケイ式は好都合です。軽くて柔らかく出来上がるため採用しているということだけでなくそんなことも関係ありそうな気がします。

parts-p3これは余談ですが私のようにでたらめな履き方をするとタニノクリスチーの頑丈さがよくわかります。製法以前の品質の問題もあるでしょう。またグッドイヤー式はウエルトの取り付け部分の縫い目から切れたこともありました。ここは構造的な弱点でしょうか?

こうして見るとグッドイヤー式は釣り込み代が短いので甲革の形を作るに当たって強く引っ張る必要がありますね。すると革の伸縮性を使い切ってしまって足になじんでのびる分がなくなってしまうかもしれません。

ところでタニノ・クリスチーにはノルヴェジェーゼ製法の靴も少しあります。手間がかかるのであまり見かけない靴です。この作り方もウエルトは使いません。あと珍しいのはコバに縫い目があるけどグッドイヤーではなくてマッケイ縫いの上にもう一枚底を貼って出し縫いにした靴もあります。とにかくウエルトが嫌いな会社なのかもしれませんね。
FlassinoTamberlano






これは勝手な想像ですがウエルト式の靴はたとえ手作りでも中底と甲革の一体感に微妙なずれが起こり木型の本来の設計通りの性能が発揮されないとかそういった高度な技術的問題もあるのかもしれません。

イタリアの公式サイトのコレクションの中に”goodyear welt"と書き添えてある靴があったような覚えがあります。例外的で珍しいものなのでわざわざ書いておいたのでしょうか。どんな靴だったか忘れてしまいましたが

9月20日追記
見つかりました。これです。
Zantello GoodyearArgo Goodyear
2008~09年モデルでした。もうひとつのこのシーズンの特徴としてつま先の上がり具合が大きくなっています。その次からは元に戻っています。このころ会社買収の動きがあったそうですのでそういうことと関係あるのかもしれません。